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素敵な瞬間に出会う 

人生には、とても素敵な瞬間があります。それは、たいていまったく予期しないときにやってくるものです。ドラマが起こるには舞台が必要であり、道具立てが必要なんですが、かといって、それらが別にドラマチックである必要はありません。なにげない日常性から、平凡な暮らしから、きらめく瞬間が、水面に跳ねる銀鱗のように躍り出ることがあります。
先日、自分の身に起きた思いがけない出来事で、そうした役割を演じてくれたのが、いつも乗るバスでした。
いつものように逗子駅のバス停からバスに乗ったのでした。一仕事終えて東京からほっとする逗子に帰ってきた夕方のことで、いちばん後部のベンチシートに座って、本を読んでいると、バス停でバスが停車し、人が乗り込んできました。本に熱中していたんですが、頭をあげると、通路を真っ直ぐに進んできた青年がひとり、正面を占めていた僕にたいし、場所を空けてもらいたさそうにしました。すぐに身を右に寄せました。すると、目の前に手をさしのべてきました。握手を求めているんだとわかって、応じました。求められた握手はちょっと風変わりなものでした。親指以外の四本の指を水平方向に前に出すのではなく、上に立てるようにして、手の平を合わせてきたのです。
それから、僕の隣に腰を下ろすと、いきなり指先で髭を触ってきました。他の人ならば、どんな反応をするでしょうか。そんなことを考える暇もなく、完全に受身になって、相手に触れられるままにまかせていました。不思議と心には、何の警戒心も恐れも嫌な感じもないのです。すると、青年はこんどは顔を近づけてきました。しかも、口を寄せてくるじゃないですか。これには、さすがの僕もびっくりしました。どうするのかと見守っていると、彼は僕の髭に唇をつけて、なぞるように確かめたのでした。それから、意外とすぐに彼はその行為をやめました。したいことをして、満足したみたいに。つぎに指を使って、数字を訊ねてきました。また、手の平を上に向けて、「~以上」を訊いてくる動作をしたので、すぐに年齢に関する質問だとわかりました。そこで、僕はこれが相手との唯一のコミュニケーションの手段であるかのように思い、誠実に対応することにしました。
彼の年齢はどうやら三十だとわかりました。彼は何か安心したようでした。

オープンなマインド。柔らかなハート。しなやかなボディ? 脳裏にそんな言葉がよぎったような記憶が。これまでに味わったこともないような体験ができたことに感謝していました。
それにしても、まるで宇宙人と遭遇しているみたいな未知な感覚でもあり、何の防御も警戒心も相手へのジャッジも、そして自分自身にたいする羞恥心さえもなく、ただ、起きていることを、新鮮な驚きと静かな心をもって味わったんでした。
青年は、つぎの瞬間には、もう自分の仕事に戻っていました。青年が手にしているのは何だろうと思って、興味深くのぞいてみると、どこかから剥がしてきたらしい、流鏑馬(やぶさめ)の行事案内のポスターでした。流鏑馬といえば、鎌倉のが有名です。しかし、逗子にもあります。ただ、年中行事として、いつ行われるのかすべて知っているわけではありませんが。どうしてそんなものを持っているのか、わかりません。彼は貼りついた紙テープをはがそうとしていました。うちの猫みたいだなと思いました。瞬間ごとに好きなことをやっているだけ。
僕も、手もとに開いた本(『ミッチェルメイモデル』VOICE刊)に視線を落としながらも、 たった今、起きたことへの感動の波がまだ去らずに、なかなか読み進めないでいました。

ほどなくして、披露山バス停も過ぎて、亀ヶ丘バス停に到着しました。青年の手を握り、「それじゃあ、僕は下りるよ。バイバイ」そう目で合図しました。ところが、彼はまるでさっきの行為を忘れているかのようにポカンとしている感じでした。
バスを下り、バスが行ってしまうと、家に向って暗い夜道を歩き始めました。静かな感動だけが胸に広がっていました。坂道を登って行きながら、今朝、逗子駅から横須賀線に乗ったときに遭遇した小さな出来事が思い出されました。湘南新宿ラインかどうか行き先を確かめようとホームに出たり入ったりしていると、「どこへ行くんですか」という声が背中のほうでしました。その瞬間、声のするほうへ体をよじっていました。声の主は、座席に座っていた七十くらいの男性。にこりともしない表情のままでした。「あっ、大丈夫ですよ」と、相手の気遣いを手で制するようにしながら、僕は微笑んで答えていました。相手も気持ちが通じたとみえて、相変わらずにこりともせずにうなずき返しました。この瞬間、美しいなと思いました。そのことはすっかり忘れていたのに、また、甦ってきました。今日は神宮球場や秩父宮ラクビー場や青山墓地の緑を見下ろす青山のビルの最上階で日本獣医師会のお偉い方にとてもいい感じで取材ができて、夕方、逗子に戻ってくると、あの珍しい青年との出会いに恵まれました。すべてがシンクロし、つながり合っている。朝のことや読んでいた本のことも含めて、これらが同日に起こったことは、偶然とは思えない気がしました。  -2008年10月30日の日記から-
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